木工の街に生まれた、家族が集う空間 ~木のおもちゃ 飛鳥工房 廣松利彦さん~

佐賀と福岡の県境、筑後川の河口近くにぽっかりと浮かぶ小さな島があります。
住所は佐賀市諸富町。隣接する福岡県大川市とともに、家具の産地としてご存知の方も多いかもしれません。

その島の中心部に工場とショールームを構えているのが、今回訪れた「木のおもちゃ 飛鳥工房」。入口の佇まいから、なんだか素敵! 小道を歩くだけで向こう側に気持ちのいい空間が広がっていることが感じられ、とてもわくわくしました。

ショールームに入ると、木の香りにふわっと体が包まれて心がすっと落ち着くよう。入口で出迎えてくれたのは、飛鳥工房の代表を務める廣松利彦さんと、小さなかわいい木馬でした。

愛娘・飛鳥ちゃんのための木馬づくりがスタートライン

廣松さんが飛鳥工房を始めたきっかけは、20数年前に娘さんのために木馬をつくったことでした。当時は、お父様が経営している会社で家具の取っ手やつまみなどの木製パーツをつくる職人さんだったそうです。

こちらが飛鳥ちゃんのためにつくった木馬。現在は工房のシンボルとしてショールームの入口にいます。

大切な娘のために、パパ手づくりの心のこもったおもちゃをつくってあげたい。
そんな思いから、素材や塗料にもこだわりぬいた、1台の木馬が完成しました。娘さんの名前は「飛鳥」。この工房の名前でもあります。

パパがつくった木馬は、飛鳥ちゃんの大親友に。当時2歳だった飛鳥ちゃんは、この木馬と毎日楽しそうに遊んでくれたそうで、それは廣松さんにとってとても嬉しい出来事になりました。

工房のロゴも木馬です。

そのほかにもさまざまなおもちゃをつくり、お友達にもプレゼントすることが多くなっていったそう。そんな木のおもちゃは次第に評判を呼び、おもちゃ工房を始めることになりました。

実はそのころ、諸富の土地での家具づくりにも変化が生じていました。これまでこの産地でたくさんつくられてきた、嫁入り道具としての婚礼家具のニーズが激減したことです。もちろん廣松さんがつくるパーツの需要も減っていきました。

「木は他の素材にはないあたたかさやぬくもりがあり、どんなものにも加工できる素晴らしい素材です。このまますたれていくのはあまりにも残念。そんなことを思っていたタイミングでもありました。パーツづくりで培ってきた“ちいさなものを丁寧につくる”という技術を活かしたおもちゃづくりは、私はこれからやっていきたいことに合致していました」(廣松さん)

職人は全員女性!ママたちがつくっています

飛鳥工房として独り立ちをしたのち、事業が軌道に乗るまではしばらくかかりましたが、現在は5人の職人さんをかかえ、たくさんのおもちゃを生み出す大きな工房に成長しています。商品のラインナップも増え、子ども用のおもちゃだけでなく、大人向けのインテリア小物やキッチンツールまでバリエーションも多岐にわたります。

工房を見学させてもらい、気づいたことがありました。なんと、職人さんが全員女性!しかも、5人中4人はお子さんを育てるママなのだそうです。

「女性だからとか、ママだから働いてもらっているわけではないんです。たまたまここで働きたいと言ってきてくれる方がみんな女性だっただけ。木工職人は男性が多い職業ですが、小さなおもちゃや小物をつくる細かい仕事は女性のほうが得意だし、つくるものもどちらかというと女性向けのものが多いから、うちには女性があっているのかもしれませんね」と、廣松さんがその理由を分析してくれました。

ママ職人さんのアイデアで商品化されたおもちゃもたくさんあります。「わが子に使ってもらいたい」という思いや「こんなおもちゃがあったらいいな」という現役ママのリアルな声が活かされたおもちゃがたくさんあるのも魅力的に感じました。

この「メモリーゲーム」もママ職人さんのアイデアでつくられたもの。子どもも大人も夢中になって遊べます。

大川市の赤ちゃん全員にプレゼントされているスプーン

飛鳥工房の人気商品の1つに、離乳食用の「ファーストスプーン」があります。3種類の木材をつかったスプーンで、離乳食のステップに合わせて使い分けられる2つのスプーンが1本になっています。

赤ちゃんの口にやさしい形状なのはもちろんのこと、ママの持ちやすさや、テーブルに置いたときにスプーンの部分が宙に浮く設計にして、衛生面も考慮されています。木材だけでなく、塗料にも天然の米ぬかオイルを使用。子どもが口にするものとして、これ以上はないというほどの安心安全設計となっています。

器とセットになった「ファーストスプーンセット」5,600円(税別) はギフトに人気。

このスプーンは、お隣福岡県大川市内で生まれた赤ちゃん全員にプレゼントされているのだとか。ヨーロッパでは生まれた赤ちゃんにスプーンを贈ると幸せになれるという言い伝えがあり、その風習を日本ならではの木で実現したプロジェクトです。

木工産地ならではの粋なはからいですね。このスプーンをつかったママたちが食器やおもちゃを買いに来てくれることも多いそうです。

ショールームは、子どもたちが集う公園のよう

おしゃれな佇まいや緑が多い環境に惚れ惚れしたショールームはその居心地のよさも抜群です。

大きな窓の向こうには、ウッドデッキのスペースに大きなテーブルと椅子がおいてあり、天気のいい日はとても気持ちよさそう。つい先日ここに廣松さんが設計したブランコが設置され、子どもたちがそのブランコではしゃぐ声が響くようになったそうです。さらに来年にはテントも設置する予定だとか!

「1度は訪れてみたい。また行きたい」と思ってもらえるような、公園のようなショールームを目指しているとのことで、まさにそんな表現がぴったりです。すぐ近くには観光名所として有名な「筑後川昇開橋」もありますし、観光がてら訪れてみるのもおすすめです。

バリアフリーで、ベビーカーや車いすのまま入れますし、おむつ替えスペースも完備です。トイレットペーパーホルダーも飛鳥工房製!

大人のためのスタイリッシュな木工製品にも注目!

木のおもちゃ屋さんという屋号ですが、つくっているのは子ども向けのものだけでなく、大人が欲しくなるようなスタイリッシュでユニークな小物もたくさんありました。

思わず夢中になってしまう木製パズルは、家で過ごすひとときをよりリラックスさせてくれそう。使いやすそうな木製のコーヒードリッパーやカッティングボードなどは、良いものを大切に使いたいというこだわり派の方の心をわしづかみにしそうです。

スマートフォンをはめてアンティークテレビのように楽しめる「スマホテレビ」も、その機能以上に見た目がかっこよくておもしろいひと品です。

これらの多くは廣松さんの作品。「おもちゃはママさんたちのアイデアのほうがいいけんね、私はこういうの担当。もともとは小さなパーツをつくっていた職人だから、得意なんですよ」とお話してくださいました。

そしてショールームにあった製品のうち、こういうアイテムも木でつくられているのかと実感したのが、こちらの盾とトロフィーです。

飛鳥工房では佐賀インターナショナルバルーンフェスタの盾とトロフィーを毎年つくっているそう。上位入賞者に贈られるトロフィーはミニチュア版を一般販売するそうですが、毎年すぐに完売してしまう人気商品です。

おもちゃだけではなく、実はこんな秀逸なアイテムもつくられているのですね。

使ってくれるお客様の笑顔が原動力

20年前に木馬をつくったときの飛鳥ちゃんの嬉しそうな笑顔と同じ、幸せな光景がこのショールームと工房にはあふれています。

「パーツを家具メーカーに納品する仕事では、エンドユーザーの反応はまったく見ることができなかったけれど、おもちゃをここで販売するとその笑顔を見せてもらえる。それが醍醐味です。子どもがうちのおもちゃで遊んでいる写真を送ってくれたり、壊れたから修理してほしいと持ち込んでくれる方も。とても嬉しいです」とお話してくれました。

たくさんの方に訪れてもらいたいという気持ちから、こんなにも居心地のいいショールームをつくったのだそう。木工体験やイベントを開催するなど、週末は大盛況なようです。

魅力あふれる木のおもちゃやインテリア小物たちを観に、この小さな島を訪れてみませんか。飛鳥ちゃんの木馬が、入口で待ってくれています。

 


問い合わせ先

株式会社飛鳥工房

〒840-2104 佐賀県佐賀市諸富町徳富112-4
TEL:0952-47-5697