手に取る人に楽しみと開運をもたらす郷土土鈴 ~のごみ人形~

のごみ人形は佐賀県鹿島市の「能古見(のごみ)地区」につたわる郷土玩具。能古見地区は佐賀県の南部に位置し、有明海や多良岳に囲まれた自然豊かな街並みの中に工房があります。

のごみ人形のはじまりは昭和20年のこと。藩の庇護の元、一子相伝で受け継がれた染め物の鍋島更紗を復刻した鈴田照次氏がつくった郷土玩具です。

私たちが訪れると、郷土玩具工房のイメージとはちょっと違う若い男性が2人も!フレンドリーな笑顔で出迎えてくれました。

1人は創始者の孫であり、のごみ人形と染色の伝統をお父さんより学んでいる鈴田清人さん(写真左)。のごみ人形と鍋島更紗の伝統を受け継ぐ若き3代目です。そしてもう1人は、のごみ人形のつくり手として、つい半年前に入社したという前田大輝さん(写真右)。つくり手としては2代目だそうです。

取材場所となった工房入口にある応接ブースのまわりには全国各地の郷土玩具がずらりと展示されていて、民芸好きにはたまらないであろう空間です。その昔、のごみ人形をつくる際の研究材料として清人さんのおじいさまが収集したものだそう。その中には、同じ佐賀県の郷土玩具である尾崎人形もありました。

写真左側にある人間のカタチをした人形と、その隣にある鳩笛が尾崎人形です。

戦後の人々に潤いを豊かさを

終戦時ということで食べるだけで精いっぱいだったその時代。人々の心が荒みがちだった世の中をみて、「気持ちに潤いと楽しさを」と玩具をつくり始めたのが、のごみ人形誕生のきっかけなのだそうです。

とはいえ、物資はまったくない時期のこと。当時ののごみ人形は近所に落ちていた木材を集めてつくった木製の人形だったのだとか。照次氏の想いどおり、人形は多くの人の心を楽しませ、評判を呼ぶことになります。

こちらが初代ののごみ人形。カチガラスや面浮立など、佐賀への郷土愛をうかがわせるモチーフばかりです。

祐徳稲荷神社のお土産品に

鹿島市内にある祐徳稲荷神社は、日本三大稲荷の1つに数えられる神社です。現在の参拝者は年間約300万人にものぼるそう。その神社からの依頼でお土産品として販売させてもらいたいと依頼を受けたことが、今の土鈴に形を変えるきっかけになりました。木材よりも安定して量産できることのほかに、当時照次氏が有田焼の絵付け指導をしていたため、焼き物の知識や道具がある程度あったこと、戦後の混乱がいくらか落ち着き、徐々に物資が豊かになりつつあった時期だったことなどさまざなま理由が重なりました。

そんな真面目ないきさつを語ってくれながら「ちなみにここだけの話ですが」と前置いて、「苗字が“鈴田”だったから、土鈴にしたのではないかという説もあります」とおちゃめな表情でこっそり教えてくれた清人さん。工房内の和気あいあいとした雰囲気は、そんな清人さんのお人柄も大きく影響しているようです。

敷地内にある窯も見せていただきました。大量の人形を一気に焼くことができる大きな窯です。

そして国民的な縁起物に

こちらが現在、祐徳稲荷神社で販売されている稲荷駒。魔除けと開運の人形として人々に親しまれている縁起物です。最近は人気のインテリアセレクトショップなどでも販売されていたりと、広い世代から支持を得ています。

「どこかで見たことがある」という方も多いことでしょう。それもそのはず。この稲荷駒は、3年前の年賀切手になっているのです。

平成26年のお年玉付き年賀切手に大抜擢!

しかも、年賀切手のモチーフになったのはこの年が初めてではありません。昭和38年のうさぎ、平成3年のひつじに続き3回目。のごみ人形は年賀切手の常連チームなのです。

その昔、潤いと楽しみをと、手に取る人の心を豊かにすべくつくられはじめたのごみ人形。モノが豊かになった今は、当初のコンセプトはそのままに、やはり心に豊かさを与える縁起物として、開運や魔除けのお守りになっています。

さらに、海外の方にも徐々に知られてきており、のごみ人形のみみずくがクリスマスツリーに付けるオーナメントとして使われているのだとか。日本を代表するラッキーモチーフとして、世界中から親しまれているのです。

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海外で人気の「みみずく」は前列右。

前田さんはつくり手として期待のホープ!のごみ人形は、型取りをするつくり手と絵付けをするつくり手の連携プレーでつくられます。今年の夏に、60年もの間型取りを担っていた松尾さんが引退。その跡を継ぐのが前田大輝さんです。

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今まで流通していたのごみ人形はすべて松尾さんがつくったものだそうです。

もともとは介護の仕事をしていましたが、ものづくりに携わりたいとこの工房の門をたたいたという前田さん。実は鈴田家とは親戚関係とのことで、古くから知った間柄でもあるそうです。

取材時に、目の前で人形づくりを実演してもらいました。始めてからまだ半年とは思えないほど慣れた手つきで、スピーディーに来年の干支である「戌」をつくっていきます。

佐賀県産の土と、有田焼などにも使われる石粉をブレンドしたオリジナルの粘土を使うことで絶妙な手触りと音色を奏でる土鈴になります。

型から抜いてある程度乾燥させてから底の部分に切り込みを入れます。この幅やまっすぐさが鈴の音色を左右する大切なポイント。1つ1つ丁寧に、きれいな音が出るように切っていきます。

そして素焼きした人形を最終チェック。切り込みにある余分な粘土部分を削って人形の土台が完成します。

前田さんの手。しっとりとした手触りの粘土ですが、冬場は皮膚の水分を奪うため、手がカサカサになってしまうそうです。

「松尾さんとは手さばきやスピードが全然違います。追いつくまであと何年かかるんでしょうね。大変なこともありますが、人形づくりはとても楽しい。これからもがんばりたいです」と、今後の抱負を語ってくれました。

「本当は松尾さんに教えてもらいたいことがたくさんあった」という前田さんに人形づくりを教えるのは、実は清人さん。小さなころから工房に遊びに来ては、松尾さんが人形をつくる姿を見て、ときには教えてもらっていたのだとか。清人さんにとっては家族のような存在である松尾さんの引退は残念ではありますが、その技術や想いを受け継いでくれる前田さんには期待を寄せているそうです。

人形もベースメイクが肝心

前田さんが型取りし、窯で焼いた後に絵付けを担当するのは女性スタッフのみなさんです。向かい合って黙々と手を動かしつつも、笑顔でおじゃべりをする時間があったりと、なんだか楽しそうでした。

絵付けに使うのは日本画に用いられる顔料。手触りがよく見た目が美しいのですが、扱いにはコツがいる職人泣かせの素材なのだとか。とくに胡粉(ごふん)を全体に塗る作業は高度な技術が必要です。

ニカワと水分を加えた顔料を温めたプレートの上でじっくり溶かします。気温や水分量によってちょうどよい固さや濃さにするための調整が必要。塗る以前の段階で、熟練の技が必要になります。

「粉の状態や気温を見極めて顔料を溶かないときれいに塗れないし、塗り方が均一にならないと、その後の絵付けもうまくいかないのよ。お化粧と一緒ね。ベースメイクが肝心!」

そんなことを笑いながら話してくれながらも、自らの担当にやりがいを強く感じている様子がうかがえました。

女性スタッフさんたちの勤務時間は、月曜日~金曜日に8時~17時までとフルタイム勤務。この道15年を超えるキャリアウーマンさんたちなのです。

私にわかりやすく仕事内容を教えてくれつつも手の動きが止まることはなく、人形に素早くベースメイクをきれいに施す様はさすがのひとことでした。

新年を、のごみ人形で縁起よく

最後に清人さんに、のごみ人形の魅力を伺ったところ「誰にでも手に取ってもらえるようなかわいらしいデザインと、温かみのある音色」と答えてくださいました。おじいさまの想いがカタチになり、今でも多くの人を豊かな気持ちにさせてくれているのは、清人さんにとって最も嬉しいことのようです。

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人気の干支シリーズは、大きいサイズと小さいサイズがあり、私も来年の「戌」を購入しました。新しい年がいい1年になりそうで、自宅で見かけるたびに嬉しくなります。

日本が誇る縁起物の1つであるのごみ人形。新年を迎える準備として、1つご自宅に迎えませんか。古き良き日本の趣がありつつも、スタイリッシュさを持ち合わせたルックスは、どんなインテリアにも違和感なく溶け込んでくれることうけあいです。


問い合わせ先

のごみ人形
〒849-1314 佐賀県鹿島市大字山浦甲1524
TEL:0954-63-4085