美しい景色を器に映す ~土平窯 藤ノ木陽太郎さん~

唐津市街から離れ、山道を登ること数十分。藤ノ木陽太郎さんが作陶を行う土平窯は人里を離れた静かな山の中腹にありました。こちらを訪れたのは12月。車の窓からは、たわわに実る露地みかんや柿が見え、青空とオレンジ色のコントラストがとてもきれいでした。

お茶室からの眺めはとてもきれい。四季折々の景色を楽しむことができるそうです。

敷地内に入ってまず驚いたのがその空間です。趣のある日本家屋が建ち並び、ギャラリーや工房、登り窯、お茶室などが点在しているほか、季節の草花やオブジェが。360度どこを見ても絵になるとはまさにこのことと言ってもいいかもしれません。

広大なお庭には焼き物のオブジェがたくさん点在しています。

感激しながらきょろきょろとしている私たちを出迎えてくれた陽太郎さんは、昭和56年生まれの36歳とお若く、こちらの緊張を解きほぐしてくれるやさしい雰囲気の持ち主でした。親しみを込めて「陽太郎さん」と呼ばせていただき、たくさんのお話を伺うことができました。

入口に咲く秋アジサイが満開でした。

窯とともに生まれ、唐津焼とともに育ってきた

まずは陽太郎さんのギャラリーへ。ステンドグラスのついた引き戸を開けると、木漏れ日がやわらかに差し込む部屋の中に作品がずらりと並んでいました。思わず「ここにいるのは心地いいだろうなぁ」と思ってしまうほど。並んでいる器がなぜかとても幸せそうに見えます。

東京の美大を卒業後に、生まれ育ったこの土地に帰り、お父様である藤ノ木土平氏に弟子入りしたのが約10年前のこと。以来、陽太郎さんは作陶一筋の生活を送ってきました。この道に進むことは、いつから決めていたことなのでしょうか。

「子どものころから、自分も陶芸をやるだろうなとはなんとなく思っていました。大学でさまざまな芸術に触れましたが、やっぱり僕が選んだのは唐津焼。絵を描くことや彫刻も好きですがしっくりしたのは陶芸でした。絵も彫りも唐津焼にはありますしね。僕にとっては作陶が結局自然なことでしたし、今では好きなことを仕事にしていると自信を持って言えます」

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敷地内にある登り窯。年数回の窯炊き時は親子の共同作業となります。

お父様がこの土地に窯を開いたのは昭和56年。陽太郎さんが生まれた年です。ずっと身近に大きな登り窯とお父様の作品があり、小さな頃から粘土遊び感覚で焼き物に触れて育った陽太郎さんにとっては、唐津焼はまさにルーツといえるでしょう。

子どものころから干支の焼き物を毎年つくり続けているという陽太郎さん、その作品はすべてご家族が保存しているそうです。

「お父さんの作品とは違うね」が今は誉め言葉

有名な窯元の二代目ともなると、偉大なお父様の存在がプレッシャーになりそうではありますが、本人はけろっと「そんなことはないですよ」と言います。

「でも、幼いころから見て育った焼き物は父の作品で、一番のお手本です。一緒につくっているとどうしても似てきてしまうから、父のものとは違う焼き物をつくることは常に意識していいます。お父さんの作品とはちょっと違うねと言ってもらえるのが、今の僕にとっては誉め言葉でもあるんです」

庭に置いてあったこちらはお父様の土平さんの作品です。

お父様の土平さんとは建物は違えど同じ土地に住み、昼食は毎日一緒に食べています。土平さんと陽太郎さんがつくった器が食卓に並ぶごはんだそうです。午前中に窯を訪れたお客様にもこの昼食をふるまうことがあるのだとか。

「おふたりの器でいただく昼食なんてファンにはたまらないですね」と言うと「器は売るほどたくさんありますから」と笑いながら答えてくれました。

師匠であるお父様は、今でも完成した作品を手に取り、アドバイスをくれるそう。それを真摯に受け止め、よりよい作品づくりに励む日々です。

土平さんにとっても、愛する息子が自分と同じ道を選び、ともに作陶をしてくれていることは幸せなことに違いないのだろうなと思います。土平窯に流れるやさしい空気は、そんな幸福感も理由のひとつなのかもしれません。

ギャラリーは陽太郎さんご夫妻が暮らすご自宅に併設されています。オブジェのむこうで愛犬が日向ぼっこをしていました。散歩は陽太郎さんの担当だそうです。

唐津焼に新しい風を吹かせたい

作品づくりでは、窯に必ず数個は新しいデザインのものを入れることを徹底しているそうです。

「まずはデザイン画をおこして、細かいところまで紙の上でかなり試行錯誤します。そうしてから粘土をねって形づくるというプロセスが僕のやりかた。一見普通に感じることかもしれませんが、唐津焼作家でデザイン画を描いている人はほとんどいないようですよ」と、裏話も聞かせてくれました。そういったところはさすが美大卒です。

楽器型花器シリーズの新作、バイオリンのやきものはとてもリアル!最後の仕上げに弦を張るそうです。

陽太郎さんにとって絵を描くことは幼少期からの日常。家のまわりにある草花や玄関先にやってくる動物をスケッチすることが好きな少年だったそうです。器だけでなく、動物や楽器の形で焼き物をつくることも多い陽太郎さんの作風は、こんな環境で育ったからこそなのかもしれません。

古唐津の写しにも独自の視点を

唐津焼の魅力の1つである古唐津の写しの制作にも力を入れています。ギャラリーの最も目立つ場所に並んでいた、一見ハート形のかわいらしい向付もその一例です。(正確にはハートではなく桃形向付だそうです)

これは唐津焼の全盛期にあたる桃山から江戸時代初めごろの形ですが、オリジナルはぐい飲みではないのだとか。そこに陽太郎さんのエッセンスが入り込み、ぐい飲みの大きさになって復刻されました。

「口当たりの良さや、目に映る景色にこだわりぬいた作品です。ぐい飲みは器の中でも格が高いものということもあり、窯の中でも特等席に置きます。最も美しくあるべき面に最高の景色が映るように工夫しています」と力説してくださいました。

器の景色にはとことんこだわる

お話の中で「景色」という言葉を何度も口にしていたのが印象的でした。焼き物は、窯の中で釉薬が流れたり、灰などと化学変化を起こしたりするため、窯から出してみてはじめて見た目=景色がわかります。

陽太郎さんが熱心に取り組んでいる茶道にも景色という言葉があるのだとか。陽太郎さんの作品には、手に取る人の目に映る景色が最高に美しいものでありますようにという想いが込められています。

毎朝10時にお茶をいただく日常が感性を育む

ギャラリーでのお話のあと「あちらでお茶でもいかがですか」とご提案いただき案内された先は、なんとお茶室でした。

恥ずかしながらこんなに本格的なお茶をいただくのは初めてで、正しい作法がわからず恐縮してしまったところ、陽太郎さんが「細かいことは気にしなくていいですよ」とやさしくフォローしてくれひと安心。とてもおいしいお茶とお茶菓子をいただきました。

お茶をたてる陽太郎さん。凛とした空気に、背筋がしゃんとしました。

土平窯のみなさんは、毎朝10時にお抹茶をたててお茶の時間を楽しんでいるそう。聴こえてくるのは鳥のさえずりや風の音。静かに心を落ち着かせながら、毎日こんな時間を持つことが陽太郎さんの創作意欲をかきたててくれています。

土平窯を訪れた方にはこちらでお茶をふるまうことが多いそうです。美しい器でいただくおいしいお茶は、格別の味わいですよ。(お作法は気にせずで大丈夫だそうです!)

絶景を生む陶芸家に

土平さんは現在の唐津焼作家の一人として知られ、全国各地で展示会を開催されています。その才能は息子である陽太郎さんが受け継いでいるに違いありませんし、誰よりも身近なところでその技術も継承しています。

そしてなによりも頼もしいのが、陽太郎さんが陶芸が大好きだということ。趣味は何ですかと尋ねたところ「器づくりが楽しいから、ほかにこれといった趣味はないんですよ」とのお答え。お休みの日は陽太郎さんがつくった器を使ってくれている料亭などに出向き、自分の器で出された料理を食べるのが至福の時間なのだそうです。

「好きこそものの上手なれ」ということわざがあるように、唐津焼を愛してやまない陽太郎さんなら、これからも景色のよい器をたくさんつくることでしょう。どんな絶景を生み出してくれるのか、今後の活躍に注目です。


問い合わせ先

土平窯
〒847-0402 佐賀県唐津市鎮西町野元1315-3
TEL:0955-82-2970
0955-82-3028