すべての形に理由がある ~赤水窯 熊本象さん~

赤水窯は佐賀県の唐津バイパス沿いにある赤いレンガ造りの大きな建物の中にあります。すぐ近くには唐津イオンがあり、とてもわかりやすい立地。大きな道路沿いということもあり、車の窓からこの建物を見かけたことがあるという人も多いはずです。

熊本象さんとお父様の熊本千治さん親子2代の工房でありギャラリーであるこちら。扉を開けるとかつて喫茶店だったときのままのカウンターの中で象さんが紅茶を準備してくださっていました。

 

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もともと喫茶店だったという店内にはおふたりの作品が並んでいて、なんだか居心地がいい空間。喫茶店としておいしいコーヒーが今でも出てきそうな落ち着いた雰囲気です。

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ジャズ音楽をBGMに、ゆっくりとお話をうかがうことができました。

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嬉野産の和紅茶と、唐津名物「松原おこし」をいただきました。器はもちろん赤水窯でつくられたものです。

親子それぞれ自由に作陶

2代目の陶芸家と聞くと、父親に師事して跡取りとして作陶をするイメージを抱きがちです。
しかし象さんは「そんなことないですよ」とケロリと話します。

実は象さんと千治さんは、つくっている焼き物の種類がすでに違いました。陶器である唐津焼をメインに作陶するお父様に対し、象さんは磁器がメインです。

象さんが陶芸のいろはを学んだのは有田窯業大と白磁の作家のもとでとのことで、お父様からではないのだとか。工房も建物こそ同じであれ、部屋は別々とそれぞれが自由に作陶しているようでした。

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上段が千治さんの陶器、下段が象さんの磁器です。

象さんが陶芸家としての1歩を踏み始めのは約10年前の30歳のころ。それまでは「ミュージシャンを目指してフラフラしていました(笑)」と照れながら教えてくださいました。

音楽が好きだったことからそんな夢を抱いたこともありましたが、音楽だけでなく工作や絵を描くことも得意だったこと、都会暮らしよりも生まれ育った唐津での暮らしが肌に合うことなどを理由にこの道に入りました。

「作陶中に土を触っていると、やっぱり自分が育った土地の土が肌に合うことを実感します。この土の上で体がつくられたんだなと、感じるんです」

ちなみに…と前置きをしたうえで、「家に窯があったことも理由のひとつです。せっかくあることだしと思って。だから、自分の代で窯を初めて土地から探す作家さんはすごいなと尊敬しています」とも。思わず場の雰囲気が和むそんなサービストークもしてくれる、とてもフレンドリーな作家さんです。

用途がはっきり定まった器を

そんな象さんがつくる磁器は、主に日常使いの器たち。喫茶店だったことから千治さんも象さんもカップをつくることが多く、店内には紅茶やコーヒーをおいしく飲めそうな美しいカップがたくさん並んでいました。

「陶芸は制限がない工芸品でもあるので、器や花器でなくてもなんでもありなんです。土を握りつぶしてオブジェですと言い張ることだってできちゃいます(笑)。 でも、制限があったほうがつくり甲斐があると感じるので自分に制限を設けています。だから用途がはっきりとした器はつくっていて楽しいんですよ」

作品が器ばかりである理由はそんなところにあるようです。「使ってくれる人のためにできることをする」がモットーなのだそうです。

古陶磁を現代風にアレンジ

昔の唐津焼や有田焼など、古い陶磁器を象さんなりの解釈で現代風にアレンジした器づくりも作風のひとつです。

例えばこちらの器は古唐津の小鉢をモチーフにしています。そのまま復刻するのではなく、少し深さをなくすことでのせる料理の幅を広げました。さらにスタッキングできるように上部はよけいな装飾を取りシンプルなつくりに。そうすることで、今の食生活や住宅事情に寄り添う器として、より使いやすく仕上がっています。

伺うとほかの器もすべてそういったエピソードがあり、「なるほど」の連続でした。

販売は個展とギャラリーがメイン

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象さんの器はこちらのギャラリーのほか、全国各地で行っている個展やイベントで購入できます。

個展やイベントへの出展が多いため、個展で並べたときのバランスを考えて作陶しているのも象さんの特徴といっていいでしょう。

「普通につくっているとどうしても丸い器や白い器ばかりになってしまいます。そうなると並べた時におもしろくないので、変化を出すために色ものを差し込んだり、高さのある器をつくったりします」

取材日の数日前まで個展をされていたとこのことですが、そんな理由でつくった黄色のお皿やオーバル皿はとても人気があったそう。バランスを調整することで変化に富んだ器づくりにも一役かっているようでした。

あるべきところに置かれた物たち

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ギャラリーのある1階のちょうど真上にある2階の工房も見せていただきました。
窓の向こうは交通量の多い幹線道路ですが、裏側の窓からは唐津の観光名所でもある「鏡山」の木々が生い茂った景色というコントラスト。

ろくろの前に貼ったデザイン画の隙間に娘さんが描いたかわいらしいイラストがあったりと、象さんの人となりがよくわかる光景があちこちにあり、ほっこりとさせられました。

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ホワイトボードの中央に、娘さんが描いたかわいいイラストが。

私たちが訪れた日は、12月上旬に開催されたグループ展が終わったばかりというタイミングでした。そこに出品した器づくりがなかなかの難題だったそうで、貼ってあったデザイン画もその試行錯誤のあとがちらほらと。そんなエピソードを笑い話に変えておもしろく語ってくれ、笑い声が絶えない時間でした。

作品や道具が雑然と置かれているようにも見えますが、これらのものすべても象さんなりの理由があって「あるべきところに置かれている」のだそう。

たとえばカラフルな器たちも、「いつか使いたい」という釉薬の色合いが常に視界に入るようにとう理由で考えあってその場所にあるそうなのです。

「できた釉薬の色合いでなにをつくるかがすぐにはひらめかないことが多いので、感覚がおいつくまで置いておきます。1年くらいたってふと思いつくことが多いんですよ」と教えてくれました。

扉を開けるとドラムセット!?

 

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工房の隣の引き戸を開けたところには、ドラムがフルセット鎮座していました。
これは象さんが趣味で演奏しているそうです。

壁の向こうにはリビングがあるのですが、ここでドラムをたたいても怒られはしないそう。かくいうお父様も多趣味な人だそうで、ギャラリーの壁にもたくさんの古時計があるのですが、それらはすべてお父様が趣味で修理をしたコレクションなのだとか。作陶にはまじめに取り組み、趣味も思いっきり楽しむ姿勢はお父さん譲りなのかもしれません。

そんな音楽好きな象さんが作陶時に聞く音楽も気になるところではないでしょうか。そのお答えは「朝はゆったりとした音楽で気持ちと体に徐々にエンジンをかけるために、クラシックを聴きながらつくっています」と意外なものでした。

美しさと使いやすさには理由がある

器の形、物の居場所、作陶時に流す音楽・・・。
象さんに質問を投げかけると、すべて納得のいく理由でしっかり返ってくることがとても印象的でした。

象さんがつくる器にファンが多いのは、そんな確固とした理由をもとにつくられた使いやすさや佇まいの美しさにもあるのではないでしょうか。ご購入の際はご本人に形や大きさ、そのほか細部に至るまでの理由を聞いてみることをおすすめします。小さな器1つでもたくさんの理由が込められ、緻密に計算されて形づくられています。そんな「熊本象」がつくる器は、毎日使うものこそ上質なものを選びたいというこだわりに応えてくれるものばかりです。


問い合わせ先

赤水窯
〒847-0022 佐賀県唐津市鏡4758
tel/fax:0955-77-2061
website:https://akamizugama.jimdo.com/