”布のような器” で陶磁器業界に新たな風を ~文山窯 中島さんご夫妻~

「窯元」というと、歴史ある古い窯を持ち、昔ながらの技法で陶磁器を焼いているイメージが強いと思っていましたが、そんなイメージを覆す窯がありました。その名も「トンネル窯」。長さ30メートルの大きな窯の中を台車が移動するオートメーションシステムを搭載。実際に目の前にすると、その規模や大きさは圧巻のひとことでした。

今回おたずねした文山窯のほか5つの窯元がこのトンネル窯で有田焼を焼いています。

年末年始以外は常に火が炊かれているというこのトンネル窯では、数多くの有田焼が焼かれています。その中には有名メーカーの食器や小物のほか、人気カフェのドリッパーなども。「あの食器がここで焼かれているとは」という発見もたくさんありました。

1窯1窯火を焚き、徹夜で火加減を見ながら焼く窯元が今でも多数あることを考えると、このシステムを採用することは大きな決断が必要だったのではないかと思わずにはいられませんでした。

トンネル窯のシステムはかなりシステマチック。成型された焼き物を乗せた台車が72分で1メートルずつ移動し、窯の出口からもともと台車があったスペースに戻るのは約30時間後。窯の温度や動くスピード、戻る位置まですべてコンピューターが管理しています。

「焼く」以外はすべて手しごと

この窯で有田焼をつくる文山窯(ぶんざんがま)は、1953年に創業した窯元で、お話をしてくれた中島正敏さんは3代目の社長さん。取材にうかがった日は雪がちらつくとても寒い日でしたが、ご登場された中島さんはなんと、Tシャツ姿!真冬でもTシャツ1枚で過ごしているそうです。(ちなみに、トンネル窯のまわりは冬でも暑いというわけでは決してありませんでした)

当番制で「宿直」の日もあるそう。「昨日まで2日間ここに泊まり込んでたんですよ」とちょっとお疲れの模様。

そんなユニークな中島さんですが、つくる有田焼はとてもエレガント。代表的な商品は「プラチナ牡丹」シリーズです。「一珍」という技法を用い、その特徴を最大限に活かした華やかな食器たちは、20年以上文山窯の主力商品として売れ続け、今も人気を誇るロングセラー商品です。

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プラチナ牡丹シリーズの一部。カラーバリエーションはブルーのほかにピンクも。

ハイテクな窯で焼いているとはいえ、それは「焼く」という過程のみ。成型はもう1つある別の工房で、機械ろくろや手びねり、流し鋳込み等で行っています。絵付けは熟練の職人さんたちがこちらも1つ1つ手作業で担っていて、その工程の見学もさせていただきました。

窯の迫力にすっかり圧倒されていたのですが、「手しごとのよさを活かす」という思いのもと、1つ1つ丁寧につくられた高品質なプロダクトを生み出しているところは、ほかの窯元とかわらないことがよくわかりました。

フリーハンドでスピーディーに仕上げる姿に思わず見入ってしまいました。
文山窯が手掛ける有田焼はほかにもたくさんあります。窯の横にあるサンプル展示スペースには、プラチナ牡丹シリーズだけでなく数百種類にもおよぶ器が並んでいました。料亭からの注文も多いそうで、特別な日のごちそうにぴったりな器がずらり。

新プロダクト「ceramic mimic fabric」

いま、文山窯は新しい器シリーズの作陶に着手しています。それが「ceramic mimic fabric」。

最初はそれが有田焼だとは思えず「何でできているのだろう」と頭にクエスチョンマークが浮かんだほどの第一印象でした。

布の模様がついた真っ白なルックスに加え、布のように薄く、さらりとした手触り。あの大きな窯の中で30時間にわたり1300℃で焼かれた焼き物だとはすぐには思えませんでした。

ceramic mimic fabricの“mimic”とは「真似・模倣」という意味。つまり「布のような器」ということになります。どのような技法を用いているのかを、車で数分の工房に移動して見せていただきました。

繊細ゆえに、熟練の手技がマスト

このプロダクトの肝ともいえる布の模様を付けるのは、この道30年以上の古川さんです。穏やかな笑顔とは裏腹に手元の動きは職人技がキラリ。熟練の職人さんです。

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別の職人さんが手びねりで成型した生地に、布を押し当てていきます。あえて薄くつくられた生地はとてももろく、かといって押し当て方が弱すぎてもダメ。生地がやわらかめであることが布地の模様をきれいにつけるのには好ましく、それも薄さと力加減のせめぎあいになります。こんなに薄いのにそこそこの力は必要らしく、見ていてハラハラしてしまいました。

最後にスタンプを押します。絶妙な手加減で1つ1つ作業にあたるため、つくれるのは5分で1個ペースだそう。

布のようにとても薄いことも特長のシリーズですが、その薄さによりさまざまな過程で割れたりつぶれたりといった失敗が生じるのが正直なところだそう。

「本当はもっと厚くしたほうが“取れ(=最終的に商品にできるもの)”は多いのですが、布のような薄さはこのシリーズの売りのひとつ。ここは妥協せずに職人さんたちが頑張ってくれているんですよ」

中島社長の奥様が、古川さんをはじめ職人さんたちをねぎらうようにそう説明してくれました。

昔ながらの技法を応用

布の模様がつけられたデザインのお皿。こちらは文山窯に昔からあるデザインだそう。

実は、焼く前の生地に布を押し当てて柄を付けるというのは、文山窯では昔からやっていた技法で、特段新しいというわけではないそう。

「戦後の物資が少ないころは、筆を持ってきれいな絵を描ける人がいなかったから、ノコギリの刃や釘で柄をつけていた時代もあった。その中で蚊帳を使い布目を写す技法が出てきたのだと先代から聞いています」

今でもその技法は残っており、サンプルの器の中には布地が模様としてつけられたものもいくつかありました。

3つの挑戦を込めて商品化

ceramic mimic fabricの制作と販売において、文山窯は3つの挑戦を行っています。

まず1つ目は新たなフラッグシップづくり。

このシリーズをつくるきっかけは、2016年の有田焼創業400年事業の一環でもありました。前述したように「のこの刃や蚊帳で模様をつけていた時期も」という先代の話を思い出し、ほかにはない文山窯らしさを前面に出した、原点回帰ともいえるプロダクトとして生まれたのだとか。

布のような薄さにこだわる理由もここにあり、この薄さは磁器だからこそ実現できるということもあるそう。しかも同じ磁器でも、有田焼をつくる素材である天草の石でないとできないであろうとも考えています。白が美しいこの素材の良さを前面に出すため、釉薬で色付けせず潔く真っ白で勝負。新しい文山窯のフラッグシップとして成長させたいと意気込んでいます。

そして2つ目は、これまでとは違う流通ルートへのチャレンジです。

商品の販売は商社や問屋が間に入り、価格設定やパッケージングなどもお任せしていたのが今までのやり方でしたがceramic mimic fabricはそれらもすべて自社で行います。

「最初から最後まで自分たちでするのは初めてのことですから、正直かなり手探りです。でもお客様に近いところで商品を届けられるのは楽しいですよ」と奥様。

作陶は社長であるご主人が、販売や広報活動は奥様が担当しています。有田焼の事業として、プロのデザイナーやWEBプロデューサーがアドバイスに入ってはいますが、実際にPR活動を行うのは奥様が主体となって自社で行っています。

「主人より私のほうが器好きかも」と話す奥様は、PR活動もとても楽しんでいるご様子。商品に注がれる愛情はたっぷりです。

左からレースカーテン、リネン、ニットで模様づけをした花器。使うテキスタイルによってガラリと表情が変わります。

そして3つ目の挑戦は、有田焼を元気にすること。業界全体をひっぱる大きなチャレンジです。

108 円で食器が手に入る今、有田焼も価格競争に巻き込まれているのが現状です。「窯元だけでなく、素材の土を卸す業者や生地屋さんなども疲弊している」と話します。

「決して安くはない価格設定ですが、手しごとの良さを多くの人にわかってもらうきっかけになればと思っています。そうすれば、ほかの窯元さんがつくる有田焼の魅力にも気づいてもらえるはず。お値段は張るかもしれませんが、それだけの価値があることを、まずは手に取って感じてもらえたらと考えています」

焼きあがった器を板ごとひょいっと持ち上げて運ぶ姿職人さんを後ろから。バランスを取りながら手早く運ばれていらっしゃいました。

なお、食器だけではなく花器にも力を入れているのは、まずは1つ手に取ってもらえるようにというアイデアから。今まで有田焼にあまり触れてこなかった若い人にアプローチしたいという思いから、さまざまな工夫が凝らされています。食器だとどうしても複数必要になることが多いうえ、ほかの食器とのバランスも考えて躊躇してしまいがちだからだそうです。

「本当はあと10年ほどで窯を閉じようと考えていたのですが、ceramic mimic fabricをつくりはじめてからはもっとやりたいと思うようにもなりました」とにこやかに話す奥様の表情が、いきいきとしていてとても素敵だったのが印象的でした。

見て触って、魅力を体感して欲しい

タンブラーは、その薄さゆえの口当たりの心地良さにも驚くはず!

ceramic mimic fabricはぜひ手に取ってその魅力に触れていただきたい逸品です。布がもつあたたかみや風合いの魅力はもちろんのこと、主役である食材や花を入れることでがらりと変わる表情にハッとさせられることでしょう。

ビギナーにおすすめなのはやはり花器。奥様いわく「真っ白だからグリーンとの相性がとてもいい」そうです。そう大きくはないサイズなので、ほんの数本のグリーンをいけるだけでOK。その場の印象がぐっとおしゃれに引きあがること必至です。


問い合わせ先

文山製陶有限会社
〒844-0007 佐賀県有田市白川丁目7番1号町

※工場
〒849-2305 佐賀県武雄市山内町大字宮野23660(有田焼工業協同組合内)
Tel:0954-45-2215
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