佐賀で木工製品をつくる意味がここに ~ミマツ工芸 実松英樹さん~

佐賀県神埼市の長閑な田んぼ道の中にあるミマツ工芸は、諸富家具の協同組合に所属する木工工房です。
もともとは家具のパーツをつくる下請企業だった会社ですが、現在は同社のオリジナルブランド「M.SCOOP」のスタイリッシュな木製小物が大ヒット。男性向けのシンプルな眼鏡置きなどを都内のセレクトショップや大手百貨店などで見かけたことがある方も多いと思います。

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お話をうかがったのは、ミマツ工芸2代目社長の実松英樹さん。実松さんのアイデアで製品化したM.SCOOPがイメージするお客さま像は「APPLE製品を使いこなして、かっこよく働く30~50代の男性」。眼鏡や腕時計のほかスマートフォンなど、ビジネスマンが使う小物を置くための木製ツールなどが主な製品。大人の男性が持つ「大切なモノの置き場所」にこだわるシリーズです。

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こちらは腕時計置き。「パートナーやお父さんにかっこよく働いてほしい」と思う女性が選ぶギフトとしても人気があるそうです。

 

海外進出が自社製品を見つめなおすきっかけに

婚礼ダンスなどの需要減にともない、家具のパーツを作っているミマツ工芸の仕事も激減した時期がありました。その際に会社のピンチを救ったのがM.SCOOPですが、発案から年月が流れるにつれて実松さんの中に「なにかが違う」という思いが芽生えるようになりました。

日本に来る外国人観光客からのインバウンド需要も高まったことから、2015年と2016年にはM.SCOOPはパリの展示会に出展することとなります。ヨーロッパでも通用するかどうかや価格が妥当かどうかを確認するための試みでもありました。

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工場では熟練の職人さんが1つ1つ丁寧に木材を削っていました。

「手ごたえはありました。老舗の文具店のバイヤーさんからその場で受注が入ったりもしましたし。でも同時に、なぜうちがこれを佐賀でつくっているのかを聞かれると答えられなかったりもして、モヤモヤする気持ちが高まったのが実際のところです」と話しながら顔を曇らせます。

メイドインジャパン製品らしく丁寧なつくりではあるものの、素材の木材をはじめとする材料はアメリカ製のものがほとんどでした。日本の木ではつくれないのかと聞かれてギクリとした瞬間もあったそうです。

もちろん、日本にも森林は多くあり木材も決してないわけではありません。国産のヒノキをつかったM.SCOOP製品もあるのが事実です。よりシンプルな製品づくりを行う場合、木目の風合いが製品イメージに大きく関わる為、イメージの合うウォルナットやメープルなど米材での生産がメインになっています。

「パリでは、日本人がアメリカの木でつくったものをわざわざヨーロッパに持ち込んで売ろうとしている、という目で見られているような気にさえなってしまった」と、釈然としない気持ちは高まるばかりだったものの、そこは割り切っていこうと決めました。

ただこのころから、自分達がこの地域でつくる意味のあるモノも、つくりたいと強く思うようになったそうです。

 

「次元が違う」国産木材の木口

「なにかが違う」

実松さんが抱えていたそんな気持ちをクリアにしてくれたのが、今回ご紹介したい「年輪時計」です。

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実はこの年輪時計は新製品ではなく、約20年前に実松さんが考案したものが原型です。ある日、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま過ごしていた実松さんのもとにこの年輪時計の注文が入りました。国内の大手自動車メーカーから自社の社有林の木材を使ってつくってほしいという内容です。

届いた木材を見て実松さんが驚いたのは、その木目の美しさでした。それまでアメリカ製の木材を使っていた理由の1つは見た目の問題。スタイリッシュなM.SCOOPには米材のほうが雰囲気がマッチするからです。ただし「年輪」というくくりで見ると、国産木材はとても美しくやわらかな表情を見せてくれることに気づかされたそう。その美しさは数多くの木材を見てきた実松さんを以てしても「次元が違う」と言わしめるほどです。

さっそく自ら佐賀県内の山に登り、丸太を見せてもらったという実松さんは、理想どおりのきれいな丸太に出合うことになります。

 

理想の木材は「佐賀杉」でした

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工場に並んでいた木材。これらが繊細な木工製品になります。

年輪時計に理想の木材は、生まれ育った土地のすぐ近くの山にありました。「佐賀杉」です。

「四季があり寒暖の差がはっきりしている日本で育った木ならではのきれいな木目は、それだけで天然の曲線を描く絵のような美しい雰囲気も持ち合わせています」と太鼓判を押します。

この木材が年輪時計を真剣につくることを決意させてくれたそうです。加工には技術が必要ではありますが、それは職人技の見せどころ。この時計だけは実松さんが自ら製作しているほどの力の入れようです。

「この木を見たときに、パリで感じたモヤモヤから突然スコーンと抜けた気がしました。すぐ近くの地元の山で育った木が刻んだ年輪は、同じ月日をすぐ近くで過ごした人にとってはかけがえのない存在です。この木で時計をつくることが僕が木工をする意味になるのではないかと思いました」

佐賀にゆかりのある大切な人へのギフトに

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年輪時計は大切な人への贈り物として制作されています。実松さんがメインにと考えているのは定年退職や還暦など、年を重ねたお祝いの品。サンプルに刻まれたメッセージはこう記されています。

「穏やかな晴れの日も、
雨風の寒い日も
刻まれた年輪は年月の証。
これから刻む新たな時が
すばらしい人生でありますように・・・」

生まれてからの日々とほぼ同じ年月を、同じ佐賀県内で育った木材の年輪は、その人の人生の刻印と同じような意味合いを持つものと言えるでしょう。晴れ渡った青空だけではなかったはずです。曇りの日も、激しい雨が降った日もあったことでしょう。暑い日も寒い日もあるからこそ年輪は美しく刻まれます。そして、たとえ同じ木でも切り口によって見た目が変わるため、2つと同じ木目はありません。

まるでその人の人生を象徴するような木目と、静かに時を刻む時計。佐賀で育った人、仕事や進学で佐賀を離れた人にこそ、ギフトとして喜んでもらえる地元の逸品になるのではないかと期待がふくらみます。

この土地が好きだから

そんな実松さんの佐賀愛は相当なものなのではないかと伺ったところ、「そうでもないんですけどね」と否定していましたが、お話を聞くとやはり熱い想いはあるようです。

「そもそも僕は2代目で、父親ほどの強い意志があるとは胸を張っては言えません。でもきっともう佐賀から出ることはないでしょう。そう考えたらこの仕事で自分にしかできないことを、自分がする意味のあることをしたいと思うようになったんです」

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そういった想いが強いからこそ、佐賀を前面には出していないM.SCOOPの製品にも、実は実松さんの佐賀愛が込められたものがいくつもあります。例えば上の画像のグラスプレイスがそう。

落ち着いたカラーリングは、実松さんが暮らす土地から見える景色がモチーフとなっています。
秋に見える、収穫後の田畑の色
寒い冬の、晴天の日にだけ見える遠くの山々の深い緑色、
そして春の若菜色。
どれもが実松さんが子どものころから見ていた美しい佐賀の景色です。

かっこいい日も、そうでない日も

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M.SCOOPはスタイリッシュでかっこいい男性のためのシリーズですが、雨風が吹き荒れるようなかっこいいだけではいられない日だって、どんな人にもあるものです。
かっこいい日も、そうでない日も。M.SCOOPと年輪時計は多くの人の人生そのものなのかもしれません。

「僕がここで木工をやっている意味をやっと見つけることができました」
そう話す実松さんの表情は、とても晴れやかでした。


問い合わせ先

有限会社ミマツ工芸
〒842-0062 佐賀県神埼市千代田町柳島1265-1
tel:0952-44-2455
website:http://www.mscoop.jp

木工の街に生まれた、家族が集う空間 ~木のおもちゃ 飛鳥工房 廣松利彦さん~

佐賀と福岡の県境、筑後川の河口近くにぽっかりと浮かぶ小さな島があります。
住所は佐賀市諸富町。隣接する福岡県大川市とともに、家具の産地としてご存知の方も多いかもしれません。

その島の中心部に工場とショールームを構えているのが、今回訪れた「木のおもちゃ 飛鳥工房」。入口の佇まいから、なんだか素敵! 小道を歩くだけで向こう側に気持ちのいい空間が広がっていることが感じられ、とてもわくわくしました。

ショールームに入ると、木の香りにふわっと体が包まれて心がすっと落ち着くよう。入口で出迎えてくれたのは、飛鳥工房の代表を務める廣松利彦さんと、小さなかわいい木馬でした。

愛娘・飛鳥ちゃんのための木馬づくりがスタートライン

廣松さんが飛鳥工房を始めたきっかけは、20数年前に娘さんのために木馬をつくったことでした。当時は、お父様が経営している会社で家具の取っ手やつまみなどの木製パーツをつくる職人さんだったそうです。

こちらが飛鳥ちゃんのためにつくった木馬。現在は工房のシンボルとしてショールームの入口にいます。

大切な娘のために、パパ手づくりの心のこもったおもちゃをつくってあげたい。
そんな思いから、素材や塗料にもこだわりぬいた、1台の木馬が完成しました。娘さんの名前は「飛鳥」。この工房の名前でもあります。

パパがつくった木馬は、飛鳥ちゃんの大親友に。当時2歳だった飛鳥ちゃんは、この木馬と毎日楽しそうに遊んでくれたそうで、それは廣松さんにとってとても嬉しい出来事になりました。

工房のロゴも木馬です。

そのほかにもさまざまなおもちゃをつくり、お友達にもプレゼントすることが多くなっていったそう。そんな木のおもちゃは次第に評判を呼び、おもちゃ工房を始めることになりました。

実はそのころ、諸富の土地での家具づくりにも変化が生じていました。これまでこの産地でたくさんつくられてきた、嫁入り道具としての婚礼家具のニーズが激減したことです。もちろん廣松さんがつくるパーツの需要も減っていきました。

「木は他の素材にはないあたたかさやぬくもりがあり、どんなものにも加工できる素晴らしい素材です。このまますたれていくのはあまりにも残念。そんなことを思っていたタイミングでもありました。パーツづくりで培ってきた“ちいさなものを丁寧につくる”という技術を活かしたおもちゃづくりは、私はこれからやっていきたいことに合致していました」(廣松さん)

職人は全員女性!ママたちがつくっています

飛鳥工房として独り立ちをしたのち、事業が軌道に乗るまではしばらくかかりましたが、現在は5人の職人さんをかかえ、たくさんのおもちゃを生み出す大きな工房に成長しています。商品のラインナップも増え、子ども用のおもちゃだけでなく、大人向けのインテリア小物やキッチンツールまでバリエーションも多岐にわたります。

工房を見学させてもらい、気づいたことがありました。なんと、職人さんが全員女性!しかも、5人中4人はお子さんを育てるママなのだそうです。

「女性だからとか、ママだから働いてもらっているわけではないんです。たまたまここで働きたいと言ってきてくれる方がみんな女性だっただけ。木工職人は男性が多い職業ですが、小さなおもちゃや小物をつくる細かい仕事は女性のほうが得意だし、つくるものもどちらかというと女性向けのものが多いから、うちには女性があっているのかもしれませんね」と、廣松さんがその理由を分析してくれました。

ママ職人さんのアイデアで商品化されたおもちゃもたくさんあります。「わが子に使ってもらいたい」という思いや「こんなおもちゃがあったらいいな」という現役ママのリアルな声が活かされたおもちゃがたくさんあるのも魅力的に感じました。

この「メモリーゲーム」もママ職人さんのアイデアでつくられたもの。子どもも大人も夢中になって遊べます。

大川市の赤ちゃん全員にプレゼントされているスプーン

飛鳥工房の人気商品の1つに、離乳食用の「ファーストスプーン」があります。3種類の木材をつかったスプーンで、離乳食のステップに合わせて使い分けられる2つのスプーンが1本になっています。

赤ちゃんの口にやさしい形状なのはもちろんのこと、ママの持ちやすさや、テーブルに置いたときにスプーンの部分が宙に浮く設計にして、衛生面も考慮されています。木材だけでなく、塗料にも天然の米ぬかオイルを使用。子どもが口にするものとして、これ以上はないというほどの安心安全設計となっています。

器とセットになった「ファーストスプーンセット」5,600円(税別) はギフトに人気。

このスプーンは、お隣福岡県大川市内で生まれた赤ちゃん全員にプレゼントされているのだとか。ヨーロッパでは生まれた赤ちゃんにスプーンを贈ると幸せになれるという言い伝えがあり、その風習を日本ならではの木で実現したプロジェクトです。

木工産地ならではの粋なはからいですね。このスプーンをつかったママたちが食器やおもちゃを買いに来てくれることも多いそうです。

ショールームは、子どもたちが集う公園のよう

おしゃれな佇まいや緑が多い環境に惚れ惚れしたショールームはその居心地のよさも抜群です。

大きな窓の向こうには、ウッドデッキのスペースに大きなテーブルと椅子がおいてあり、天気のいい日はとても気持ちよさそう。つい先日ここに廣松さんが設計したブランコが設置され、子どもたちがそのブランコではしゃぐ声が響くようになったそうです。さらに来年にはテントも設置する予定だとか!

「1度は訪れてみたい。また行きたい」と思ってもらえるような、公園のようなショールームを目指しているとのことで、まさにそんな表現がぴったりです。すぐ近くには観光名所として有名な「筑後川昇開橋」もありますし、観光がてら訪れてみるのもおすすめです。

バリアフリーで、ベビーカーや車いすのまま入れますし、おむつ替えスペースも完備です。トイレットペーパーホルダーも飛鳥工房製!

大人のためのスタイリッシュな木工製品にも注目!

木のおもちゃ屋さんという屋号ですが、つくっているのは子ども向けのものだけでなく、大人が欲しくなるようなスタイリッシュでユニークな小物もたくさんありました。

思わず夢中になってしまう木製パズルは、家で過ごすひとときをよりリラックスさせてくれそう。使いやすそうな木製のコーヒードリッパーやカッティングボードなどは、良いものを大切に使いたいというこだわり派の方の心をわしづかみにしそうです。

スマートフォンをはめてアンティークテレビのように楽しめる「スマホテレビ」も、その機能以上に見た目がかっこよくておもしろいひと品です。

これらの多くは廣松さんの作品。「おもちゃはママさんたちのアイデアのほうがいいけんね、私はこういうの担当。もともとは小さなパーツをつくっていた職人だから、得意なんですよ」とお話してくださいました。

そしてショールームにあった製品のうち、こういうアイテムも木でつくられているのかと実感したのが、こちらの盾とトロフィーです。

飛鳥工房では佐賀インターナショナルバルーンフェスタの盾とトロフィーを毎年つくっているそう。上位入賞者に贈られるトロフィーはミニチュア版を一般販売するそうですが、毎年すぐに完売してしまう人気商品です。

おもちゃだけではなく、実はこんな秀逸なアイテムもつくられているのですね。

使ってくれるお客様の笑顔が原動力

20年前に木馬をつくったときの飛鳥ちゃんの嬉しそうな笑顔と同じ、幸せな光景がこのショールームと工房にはあふれています。

「パーツを家具メーカーに納品する仕事では、エンドユーザーの反応はまったく見ることができなかったけれど、おもちゃをここで販売するとその笑顔を見せてもらえる。それが醍醐味です。子どもがうちのおもちゃで遊んでいる写真を送ってくれたり、壊れたから修理してほしいと持ち込んでくれる方も。とても嬉しいです」とお話してくれました。

たくさんの方に訪れてもらいたいという気持ちから、こんなにも居心地のいいショールームをつくったのだそう。木工体験やイベントを開催するなど、週末は大盛況なようです。

魅力あふれる木のおもちゃやインテリア小物たちを観に、この小さな島を訪れてみませんか。飛鳥ちゃんの木馬が、入口で待ってくれています。

 


問い合わせ先

株式会社飛鳥工房

〒840-2104 佐賀県佐賀市諸富町徳富112-4
TEL:0952-47-5697